★南蛮渡来 / 暗黒大陸じゃがたら (1982)










ロックは欧米人のもの。日本人はしょせん猿真似で、太刀打ちできない。はずだったんだ、このアルバムを聴くまでは。
コレとの出会いはけっこう凄い。私がまだ高校一年生の頃、ある日同級生のTにいきなりコレを渡された。バンドのボーカルをしてたTのお兄さんが、「おまえ の同級生のAO(私)なら、コレを理解できるはずだ」と言ったんだそうだ。彼とは特に知り合いではなく、お互いバンドをしてたので、何となく顔を知ってる 程度だったのだが。
ちょうどその時私は森脇真末味のロック漫画でじゃがたらを知ったばかりだった。漫画の中のバンドがじゃがたらの「でも・デモ・DEMO」(このアルバムの1曲目)を演奏したのだが、それが何ともかっこ良くて、本当の音を聴きたいと思っていたところ。何たる偶然か。
で、聴いた。
────ぶっ飛んだ。何だコレは。
「あんた気にくわない」────そう、漫画の中でも前奏なしでいきなりボーカルがそう歌いだすのが妙にクールだったのだが。その後に怒涛のごとく展開された音ときたら!!
日本人にもファンクが出来るんだ!とか、もうそんなレベルの話ではない。これは一体どうしたんだ。このバンドは、外人から影響を受けてロックをやってな い。だってこの音は、土着じゃないか。どう聴いたってこの音は、このバンドの、江戸アケミの内側から沸いてる。日本人がロックをやる上で大きなネックとな るはずの日本語が、何の邪魔にもなっていないどころか、逆にこのバンドの音の大きな大事なファクターとなっている。「暗いね暗いね、性格が暗いね」「見飽きた奴等にゃおさらばするのさ、するのさ、するのさ」────このかっこよさ、この猥雑さ。
6分半の長さをまるで一瞬のように感じさせる1曲目が終わり、呆然とするヒマもなく、2曲目「季節の終わり」が始まる。
1曲目とまるで違う。ああこの攻撃的なギター!ナベのベースのうねること! なんで日本人にこんなタイプのパンクが出来るんだ?! 極上のパンクが、何と曲の終わりごろにはいとも自然に、関西ブルース的なドサ回り風フレーズに取って代わる。
呆然とするうちに3曲目「BABY」。全員で「BABY!」という単純なフレーズに全力を込めてぶつけてくる。歌詞もまさしく「ただそれだけのことさ」。 途中、間奏で馬のいななきのようなホーンが入る以外、えんえんと同じフレーズ。なのに飽きる隙など一瞬も与えず、信じがたい力で迫ってくる。
4曲目「タンゴ」。突然またがらりと変わる。卑猥と言ってもいいような古い歌謡ブルース風の前奏。「さあ、しっかり」と「ねらいをさだめて」の間のギターなんて、力が抜けるほど安っぽい。それなのにどうしてこんなに、目頭が熱くなるほどいい曲なんだろう?
────全部こうだ。ラスト曲「クニナマシェ」まで、ノンストップでこの状態が続く。「クニナマシェ」は9分以上あるが、ひと息で聴いてしまう。「人類ミナ兄弟」「ヤラセロセロセロセロセロセロセロ」のフレーズは見事というほかない。
今、CDの為に書かれたレビューを読むと、近田春夫と湯浅学とが、口々にじゃがたらを奇跡だと褒め称えている。本当に、これは(理解されるかどうかは別として)日本が世界に誇れるロックバンドである。そして「南蛮渡来」はその最高傑作と言っていいと思う。

('03,2,11)





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